下の追伸

納骨堂で青年に声をかけて様子うかがい。…その理由として、望遠で青年を見ていたら、何だか自分が若かった頃を思い出したこともあったのでした。


私は大学を卒業後、なかなか就職先が決まらずに、新聞の求人欄で見つけた書店で働きましたが、正社員扱いではなくバイトの待遇。色々あってすぐに辞めました。それから図書販売会社で百科事典などの書籍の訪問販売員として働いたのでした。


毎日、重いカタログの入った黒い鞄を下げ、スーツにネクタイ姿で1日中、当てもなく街を歩き続けたのでした。飛び込み訪問。家々のチャイムを鳴らしたり、扉をノックしたりの繰り返し。大抵が嫌な顔をされて、話さえ聞いてもらえません。そのうち、訪問すること自体が恐くなり、家々を通り過ぎることが多くなりました。雨の日はズボンのすそが泥だらけになりました。


当然、書籍は売れません。売れないので会社にはいられなくなり自主退職しました。ひと月もたなかったのかな? 結局、飛び込みで確か「日本の歴史セット」と小学生用の「ジャポニカ百科事典」の2本しか売れませんでした。それも、たまたまだったのです。たまたまが、そんなに沢山ある筈はないのです。後で転職を繰り返した中で、新車や損害保険の飛び込みも経験しました。しかし、経験から、飛び込み訪問をさせるような会社で働くのは間違いだと思いました。


そんなこんなで、青年に自分の姿を重ねていたのでした。やっぱり、辛い時は「誰かが声をかけてくれないかなぁ?」と期待するものだと思いますよ。望遠で見ていた青年の顔は、私が声をかけた時とは、全然違う明るい顔になっていました。私は青年に「無理をしたらいかんよ、気をつけてな」と言って見送りました。


笛吹ピエロの創作世界

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